Akiomi Kuroda / 黒田明臣 | GO BEYOND

01/10

挑戦

2014年7月、写真をはじめた当初、ライティングの習作として撮影した一枚。この一枚を 1x.com という海外の審査型サイトに投稿したことをきっかけに集英社の編集者の方に見つけてもらうこととなり、初めて自分の写真が世の中に仕事として出ることになりました。写真とは、前触れもなく突然こういうめぐり合わせが起こりうる世界なのだと体験できたことで好奇心のアクセルをベタ踏みすることとなってしまいました。

02/10

条件

2014年10月、目指す画作りに辿り着くことができず、寝食も忘れ仕事以外の時間は撮るか現像することに費やしている趣味の人として過ごす日々の中で、突然自分が再現したかったトーンを実現することができてしまいます。一体何故かと思いきや何か新しいテクニックを試したわけではなく、今まで日常的に行っていた方法論と撮影条件が合致した結果でした。なんだ、大切なのは条件なのかとホッとすると同時に恐ろしい世界だと感じた忘れられない足あとです。

03/10

審美眼

スタジオを借りてヘアメイクやスタイリストと協力しながら意気込んだ撮影。スタジオの景観を活かしながら撮影したメインカットとは別でなんとなく撮影したのがこの一枚。撮影の労力とは反比例してどうにも"ついで"に撮影したこちらの写真の方が良いように思えてしまいました。とは言えこの一枚を選んでしまったら多くの努力の行き場が失われることも事実。「あーどうしよ」と、悩んだ末に心の声を追った結果この一枚をメインカットとしたわけですが、結果的に自身の作品の中でもおそらく最も多くの方に見ていただける一枚となりました。審美眼を追うことが大切なのだという教訓にしています。

04/10

技術

友人たちと祖母の家を訪れて撮影した一枚。殆ど遊びの延長線として特にプランもなく臨んだものの、日本家屋特有の暗さと天候の悪さも相まって自然光を活用しながらライティングしていく他なく、自分の8bitの脳みそは現場で大爆発。ところがリアルタイムに試行錯誤しながら3灯のスピードライトを活用しながらアドリブで撮影してみると、不思議と思い通りの雰囲気を作ることが出来てしまった。少し成長を感じたことを記憶している思い出深い一枚です。

05/10

解放

テストシュートの合間に写ルンですで撮影した一枚。現像からあがってきた写真たちをみて、性能やテクニックなどを超越して写真としての良し悪しは存在するのだと、機材がどうとか性能がどうとか気にしていた自分が馬鹿らしくなるほど、何かから解放された瞬間でした。イメージとしてはイルミの針に気づいた時のキルアを想像していただければ幸いです。

06/10

表現

実家で実母と友人たちを交えた作品展の一枚。当時、ペルソナオフというコンセプトで写真の虚構性に焦点をあてた作品をいくつか撮影しておりその中の一つです。写真はフレームの中に写っているもので語られていることが多いことに着眼し、前後の文脈やフレームの外に意識を向けられることはできないかと考えていた頃でした。たぶん。当時はそのように何か小難しいこと考えていたわけですが、今こうして作品をみてみるとただ作品としてのみ存在していることに気付かされます。

07/10

化学反応

日帰りでドライブしながら15着の衣装をあれやこれやと着替えつつ立ち止まっては撮影しての繰り返し。全てがいきあたりばったりの一日。自分の撮影には、支配的な取り組みとそうでないものが明確に分かれており、この日は限りなく支配的な要素を省いてモデルとの純粋な化学反応のみを追求した一日でした。結果、納得のいく写真を多数残せることになります。普段であればディスプレイを確認して意図しているものが撮れているかなど精査してしつこく撮影したりしていたのですが、そういった先入観から解放される体験でもありました。よくよく考えてみるとどれほど確認しても納得のいく一枚かどうかその場で追求できていたわけではないので、少しずつ不確実性や化学反応の中に自分の喜びがあるのではないかという気持ちが芽生えはじめてきます。

08/10

支配

ヘアメイクとモデルとライティングによって成り立つビューティーを目指したような撮影は、自分にとって最も支配的な取り組みとなります。これは仕事として写真を撮るにあたっては重要な要素であり、生来得意な分野でもありますが、写真家として目指しているところかと自問自答すると答えはノーということになります。それは撮影しているのではなくアイディアを実践している行為に近く、アイディアさえ浮かんで実現可能性がイメージできてしまえばそこに大きな喜びはありませんでした。自分にとって写真活動というのはよりエゴイスティックなものであり、確実性よりも不確実性や眼の前の現実との化学反応なのだと確信するに至ります。この撮影自体は写真として大きな満足を得ると同時に、自分が目指す道ではないと悟った一枚でもありました。

09/10

発見

2017年末。支配的な撮影に飽きはじめていた頃の一枚。その時どんな気持ちだったのか、好奇心はあったか、何を求めていたか、どのような感情だったか、不思議と思い返せる一枚でもあった。会話も少なく、ただひたすらに撮影をしていながら日記のように思い返せる事に気づいた時、ふと自分が求めている写真というのはこういうことなのだと発見するに至りました。より原始的に、より簡素に、より客観的に。いまのスタイルに行き着いたきっかけの一枚。そこに現実と虚構が調和していると感じられる一枚。少しゾッとするような一枚。そういうものを撮れた時に喜びを感じます。変態かもしれません。

10/10

道

今の撮影スタイルの礎となっている一枚。何故これが個人的に納得いっているのかを言語化するのは今のところできないのですが、最後に一枚選ぶとしたらこの一枚です。ポートレートを撮影していくにあたって自分が目指している距離感や客観性が表現できていると心の底から思えているからなのだと思いますが、その答えを求めてこれから先も写真を撮っていくことに変わりはありません。まだ大した経験ではありませんが写真を学んでいく中で経た軌跡を振り返ってみると、なんとも自分らしい遍歴を辿っているなあと再発見することができました。そのような意味も込めて、この展示を "It makes sense" と題します。